PMO:PMOの40%は潤滑油あるいは傭兵となるべき。

コンサルタントが高いフィーをもらって担当するPMOのメインミッションは、”PM(プロジェクトマネージャー)”あるいは”それに類するクライアントの意思決定者”に意思決定をさせることだと考えています。これは本ブログでは以前から書いている通りです。

「PMOって何をする機能なの?」 と言われると、ついPMBOK(Project Management Body of Knowled...続きはこちら。
前回に引き続きPMOの重要な役割について。今回は特にクライアントやプロマネの意思決定を加速させるために、具体的にどのような手順を踏む必要が...続きはこちら。

その一方で、PMOの40%は”潤滑油あるいは傭兵”の役割も担っていると考えています。それは戦略的PMOは”プロジェクトの推進にコミットしている”からです。

残念ながら実際には、PMOの基本である管理と報告に終始してしまっているコンサルタントも見かけますが、プロジェクトの推進課題に取り組み続けていると管理と報告のような定常業務を行なっている時間の方が少なくなると思います。

■潤滑油の役割は主に組織間のファシリテーション。

”潤滑油あるいは傭兵”とは具体的に何を指すのでしょうか。

潤滑油と言っているのは主にファシリテーションです。プロジェクトが大きいとどうしても組織間の摩擦やお見合いといったコミュニケーションの問題が生じてきます。組織をまたいだ課題などは双方の想いが汲まれないまま推し進められてしまったり、暗に押し付け合いになったりします。

こういった組織横断の検討、特に大なり小なり感情が入り混じってしまう場合には第三者による客観的なファシリテーションが有効です。そのためPMOは積極的に”横断検討会”のような会議体を開催し、解決難易度の高い議題は積極的にエントリーを求めていきます。そして議題をガンガン捌き、合意事項と出席者のNext Action(ToDo)を明確にしたら、それもしつこくトラッキングしていきます。

この”第三者という立場”と”ファシリテーションスキルの提供”が潤滑油になるのです。ファシリテーションスキルについては別途書いているのでそちらをご参照。

■傭兵の役割は落ちている球を拾って頭出しすること。

そしてもうひとつ重要なのが”傭兵”としての役割。今回はこちらをメインに書きたいと思います。傭兵というと助けを求められたら一時的に出張って手伝うイメージかもしれませんが、それだけではありません。むしろ積極的に落ちているものを拾いにいきます。

落ちている、と言っているのは具体的に

  • プロジェクト運営課題など、個別の検討組織では担当外の課題
  • 幾つかの組織間で担当が曖昧となり、結果誰も検討していない課題(三遊間とかポテンヒットとも言われる)
  • 逆に複数組織に跨がる課題で、だれも検討主導をしようとしない課題(お見合い)
  • 既存の組織のR&Rではどこにも当てはまらないような、新しい領域の課題

などです。つまり誰もやってないけど誰かがやらなければならないもの、こういったものを積極的に見つけ(あるいは情報を仕入れ)てPMOが扱います。

もちろん担当組織が簡単につけられる、あるいはPMなどからトップダウンで担当を割り当てれば済むものはそうします。でも実際には

「これ誰の担当ですかね・・・?誰かやってくださいよ!!」

と言い続けるだけでは全く前に進まないものです。なのでそういったものはPMOが検討を主導するのが良いと僕は考えています。

■落ちていた球はいつまでも持っていてはダメ。素早く捌いてサッと渡す。

とはいえPMOはいつまでもそういった検討を持ち続けるべきではありません(プロジェクト推進に関わる運営課題は別)。PMOが何でも検討を拾って最後まで進めていたらどんどん人数が必要になってしまいますし、そして

「落ちている課題も見て見ぬふりをしていれば、いずれPMOがやってくれる」

という最悪のカルチャーを作ってしまいます。なので頭出しまではPMOで担当し、そして適切な組織に渡していきましょう。

具体的な流れはこうです。

  1. 落ちている球を見つけては拾う
  2. 進め方を整理するために、足でかき集めた情報から仮説を組み立てる
  3. 関係各者を集めて進め方と今後の分担について合意を取る
  4. 合意した担当に検討の続きは渡し、新しい分担のルールを引く

こういった動き方で止まっているものを推し進めていくのです。杓子定規なルールを言うだけでなく、自ら実働の頭出し(難しいところ)を担う。まずは課題検討の進め方についてコンセンサスを取る、そして各組織単位のタスクにまで分解して渡してあげれば相手も受け取りやすくなります。

■PMOができる人材像は軽く見られがちだが、実際は高い総合力が求められる。

受け取りやすいと言っているのは、言葉を濁さずに言えば「めんどくさい最初の組織間調整が終わっている」ということと「善意である程度やってくれたので拒否しづらい」というやや日本的なカルチャーを背景にしています。あとはPMOとしても、

「わかりました、XXXまでの頭出しは私たちの方で検討進めるので、今後担当決まったチームはXXX以降お願いしますね!」

と早い段階(具体的に担当組織が決まってくる前)から全体に明るく言っておくのもコツとなります。担当が決まる前から全体にアナウンスされていたことは、担当が決まった後になって急にはゴネづらいのです(比較的)。

それと4の”新しい分担ルールを作る”というのも大事で、3で合意した今回の球の分担に基づいて、組織間の境目を明確にルール化します。これを繰り返していくとこれまで組織間の分担が曖昧だったところが減っていき、理論上はプロジェクトが進んでいくとだんだん落ちている球が少なくなってくるはずです。

簡単に言ってしまいましたが意思決定をさせることも、潤滑油になることも、傭兵になることも、それぞれ結構な総合力が求められます。もちろんプロジェクト全体がカバー範囲なので知識的面では浅い内容を扱うことも多く、ファクトを集めてロジックを組み立てる能力だけでなく、ある程度”勘の良さ”も重要だと感じます。

PMOに淡々と作業をするマメなメンバーを置いているプロジェクトがあれば、ここにこそ総合力の高い人材を配置した方が良いと思いますよ・・・