さて、夏に差し掛かってきて、世の中のほとんどの企業では新卒が研修を終え概ね現場に配属されたのではないでしょうか。感覚的なことではありますが、現場に出てきた新卒社員にも(スキル面ではなく雰囲気や姿勢として)「社会人になってきているなぁ」という人と「まだ学生ちゃんだなぁ」という人がいるのを感じます。コンサルタントとして色々な企業の新卒を見かけてきた中で、もちろん企業とその新卒研修によっても差があるなぁとも感じました。
これまであんまり新卒の就職活動について書いてはこなかったのですが、学生の就職活動というのは企業で働くための準備・練習期間のひとつだと考えたので、今回そのことについて書いていきたいと思います。
基礎がガタガタの状態で仕事の現場に出ても、その後成長しづらいことを理解してほしい。僕は現場に出る前に基礎固めがしっかりできているほうがいいと考えている。
新卒で入社するとまずは新卒研修があります。その期間は企業によって様々で1ヶ月のところもあれば3ヶ月のところもあり、「早く現場で身をもって学ぶべし!」といったような企業文化によったり、それと新卒に給与を払いながら育成するコストをどれだけかけられるかにもよります。これについては一概に良し悪しは言えないですが、企業の目線からすると
「成果を出せる人材を育てたいが、一方で育成コストを抑えて早く現場で業務に取り組み、会社に貢献してほしい」
という投資対効果のバランスで育成を考えます。新卒の頃はあまり考え及ばなかったですが、企業にとって採用や育成はヒトもカネもつぎ込む投資です。この視点を早くに持てると自分が会社に求められていることに気づきやすくなります。
一方で新卒社員からすると
「いずれにせよ給料はもらえるのだから、急いで現場に出るよりしっかり基礎を固められるほうが良い」
と僕は思います。どうしても新卒で入ったばかりだと「研修長くて飽きたわー」とか「大学の同期はもう現場に出てるんだし、自分も早く研修終えて配属されたい」みたいな気持ちが湧いてきますし、僕もそうでした。。でも後になってわかったのは、新卒研修を過ぎてから現場で基礎作りのようなことはあまり教えてくれないということです。現場では”実務に即した教育”がメインであって、(会社として集合研修はあるかもしれないが)体型立った基礎は教えてくれません。
そんな基礎地盤がガタガタの状態だと、その上に家を建てても大体歪みます。現場での教育は最低限の基礎地盤ができていることが前提だからです。まぁ正直こんなことを言われても学生には実感が湧かないと思います。僕が学生の頃に言われてもまだ体験してないので、肌に染みて理解することはないです。
でもその構造は”頭では理解”してほしいと思います。でなければ就活→新卒研修→現場で活躍というステップに効果的な戦略を持って挑めないからです。
企業の新卒研修であっても案外”基礎の基礎”は教えてくれない。なぜなら基礎の基礎ができてないと採用の時点で落とすからだ。
しかし新卒の研修では基礎の基礎、例えば人に何かを伝えるにあたって、
- 状況を整理して重要なポイントを洗い出し
- 伝えるための文脈・構成を練り
- 文章として簡潔に記す、あるいは口頭で人に伝える
といったような会社での業務に限らず、普段の生活でも行うような内容は教えてくれない感覚があります。その一方で、一般的に”ロジカルシンキング研修”とか”プレゼン研修”のような講義は新卒研修でもあるでしょうが、そういった知識・技もある程度の素地がないと活きません。
基礎の基礎というのは、大学入試に向けて予備校で小論文で添削してもらったり面接の練習をしてもらうような、そんなイメージです。それだけではなく多数の初対面の、年齢もバラバラな人たちに愛想よく接し良い印象持ってもらうにはどうしたらいいか、すぐに言い包められて押し黙るのではなくしっかり自分の意見を言えるか、対面している人の目をしっかりと見ているか、などなどです。
こういうことって新卒の研修ではほぼ教えてくれないと思っています。理由は簡単で、そもそもそれらが最低限のレベルに達していないと「採用の時点で落とす」からです。
企業によって求めるレベルや重視する点が異なりますが、普段学生生活を過ごしてきて、ある日いきなり就職活動への理解も対策もなく企業の採用活動を受けても落ちるのが普通だと思います。僕も含めてそういう就活のスタートを切る人も多くいるんじゃないでしょうか。
「あー、いつの間にか就職活動の時期だー、、、とりあえず早い段階で採用やってて企業名聞いたことあるとこに応募してみるか、、、」
そして落ちます。
すると”ありのままの自分が否定された”ような気持ちになって、このまま社会に出れないんじゃないかと悲しみと不安が混じった状態になるかもしれません。
だからこそ”基礎の基礎”を就職活動の中で整える。なので就職活動は企業で働くための準備・練習期間とも考えるべき。
でも心配しないでください。もう一度言いますが、大学生活をフツーに過ごしてきた状態では「企業に積極的に採用される状態ではない」のがフツーです。だから一番最初に書いた通り、就職活動においては”企業で働くための準備・練習”が必要なんです。
世間ではよく就活対策なんて言われますが、なんかその、
「コツだけをおさえてゲームを最低限の労力で攻略する」
みたいなイメージが僕は好きではありません。もちろん就職活動にフォーカスした準備はすべきですが、”小手先の小ワザ”ばかりを身につけようとすると、企業に入社してから基礎の基礎ができていなくて成長できないリスクがあります。それに就活でもレベルの高い企業ほど、そして面接が進むほど小手先だけでは見抜かれると思います。
就職活動期間の後期になって”小手先の小ワザばかりで、基礎の基礎が身に付いていない”状態だと、そこから基礎を身につけるのには時間がかかるので間に合わなくなる(行きたかった企業で内定が取れないままシーズンが終わる)可能性もあります。その結果志望度の低い企業で妥協したり、就職浪人になったりするでしょう。。
余談ですが、知り合いの中で1年目の就職活動の後期に基礎作りの必要性に気づき、間に合わずその年は就職浪人になってしまったものの、2年目の就活では早々に良い内定を勝ち取った人も何人か見たことがあります。2年目の就活開始時期は周囲と同じぐらいだったのですが、2年目の早期に基礎作りができていたことが周囲の”就活準備始めたて”な人たちの中で輝きを放ったんだと思います。就活始まってひたすらエントリーシートを量産するのではなく、この基礎作りの重要性と固め方に早期に気づいたほうが有利だと感じます。もちろんエントリーが本格化する時期の前に基礎を作るのが理想です。
学生時代なんてビジネスマンに向けては何の意味もない、なんてことはない。偏りはあるがそれぞれの学生生活の中でも基礎力は磨かれている。
それと誤解のないように書いておくと、フツーに学生生活を送ってきたら企業生活においてまったく基礎がなっていないというわけではないです。
バイトで色々なお客さんに上手に関われるようになっているかもしれないですし、サークルで後輩の面倒を見たり人間関係の間を取り持ったり、あるいは組織運営の基礎が身に付いてるかもしれません。それ以外にも色々な体験をしていれば知らず知らずに自分の基礎能力が上がっているかもしれません。もちろん家でずっと寝てただけだとアレですが、フツーに学生生活を送っていても自分の長所の”種”ができているもので、それが企業生活でも役に立ちます。就職に向けては”足りていないところは基礎作りをする”ことと、”自分の長所を知り、さらに磨く”ということを行えばいいんです。
授業全然出てなかったり留年してまで遊び呆けてた人が、就活で急にめちゃくちゃ良い企業から内定もらったり、社会に出てからも活躍したりする「なんでアイツが・・・」みたいなケースを見たことがあると思います。案外遊び呆けて色々な経験を積んでいるということは、基礎能力を高めたり長所の種を育てたりするのに繋がっているんだと、今となっては納得できます。
一応言っておくと、コミュニケーション能力が高ければそれでいい、というのは高いレベルに行くほどそれだけでは通用しないので悪しからず。
ちなみにコンサルティング各社は新卒の基礎固めに重点をおいている。それは現場に出てすぐ成果を出し、クライアントからプロとしてお金をもらうためだ。
コンサルティング企業、特に採用人数もそれなりにいる大きな企業だと新卒の研修期間が比較的長い気がします。よく「育成が丁寧だ」とか「研修が充実している」なんて声を聞きますし、志望理由の一部としてそんな話を就活中の学生、若手の転職組から耳にすることもありますが、その志望理由が本質を捉えていることはあまりないです。
育成が丁寧で研修が充実しているのは、あくまで利益を追求する企業として育成にメリットを見出しているからで、
- 新卒だろうと若かろうとプロとしてクライアントから高いお金をもらう(もらいたい)
- とすると現場に出て早期に最低限の成果は出せる状態になっていなければ、クライアントからクレームになるしプロジェクトを外されれば本人も成長機会を失う(そうすると成長の波に乗りづらくなる)
- よって現場に出す前に一定のパフォーマンスを発揮できるよう初期投資(育成)を厚くすることが、結果として会社のリターンを大きくする
という構造があると考えています。新卒は現場に出てすぐは、クライアントにも新卒であることを説明して一定期間無償でプロジェクトアサインするファームもあります(人月チャージの案件の場合)。でもいずれはチャージ(有償化)していくためにクライアントに交渉をするのですが、成果が出ていなければもちろんお金はもらえずプロジェクトを外されることになる厳しい世界でもあります。
もちろんコンサルティングに限らず企業の業態にもよります。コンサルティングでは新卒でも面に立ってクライアントに接するケースが多く、その成果もコストもクライアントに露呈しやすいこともあって初期育成には特に力を入れざるを得ないのです。