業務効率化:ビジネスにおいて物事を突き詰めることの罠。

こだわる、極める、突き詰める。

これはとても良いことだと思いますし、プロフェッショナルでも専門家でも、職でもこのマインドは必ず持っておくべきだと思います。これこそ自らを高めるために絶対必要な要素でしょう。

でもビジネスにおいて全てを極めるべきでしょうか?アートや職人の世界と、ビジネスの世界は異なると考えており、端的に言えば”効率を求める”ことのプライオリティが全く異なると考えています。

ビジネスにおいて、すべてを突き詰めて考えるべきかというと一概にはそうと言えないように思います。なぜなら費用対効果の観点がすっぽり抜けてしまうと、時間ばかりかかってしまう一方で効率的に成果につながらないからです。

■リソースは有限で、時間をかけることは投資だ。

もうサブタイトルを見ればわかってしまうことかもしれませんが、つまりは同じ時間をかけるなら、より大きなリターンが期待できるものに時間をかけようぜ、ということです。

「そりゃあそうだ」

と言われるかもしれませんが、いやいや、意外と忘れがち。例えば

「定常的な報告業務を削減して、もっと営業活動に割ける時間を増やしなさい!」

と言われれば誰しもが、そうだなぁと腑に落ちます。でも広告代理店でもない事業会社のマーケティングの担当者が

「オンライン広告の出稿パフォーマンスを毎日つぶさにチェックして、毎日広告代理店に電話をかけてチューニングをしなさい!日々変化するものだからROAS(投資対効果)を最大化するためには常に状態を把握して迅速に対応する必要がある!」

と言われたらどうですか?

■単独の問いでは正しい。でも他にもっと効率の良い施策があるのでは?

上記の問いに対しては、当然ながらROASを最大化するための日々のPDCAは必要ですし、その問いだけを考えれば正しいです。広告運用を突き詰めてチューニングするということですね。

ただここの難しいところは、やらなきゃいけないけど”程度の問題”があるということです。なんでも性善説に立って100点を目指せと言われると、限られたリソース(予算・工数)の制約から現実的ではなくなります。

仮に毎日1時間分析をして30分代理店と議論をしてたら、8時間のうち19%もの時間を使うことになりますね。これだけの工数を割いて、確かに広告運用開始当初は大きな改善ポイントが見つかれば、売り上げも大きく改善するでしょう。でもいつまでも高いペースで改善は続きません。

次第に成熟してくれば、小さな改善は積み重ねられても、かけた時間に対しては見合わなくなります。毎日広告運用に時間をかけている割には成果の出ないチームという烙印が押されるでしょう。

それにいつまでも細かい内容に突っ込み続けてたら、なんのためのプロへの委託なのかわからなくなりますね。笑

■90点を取らずとも、別のことに力を注いだ方が良い場合もたくさんある。

60点くらいを取れたら、あとは片手間に80点を目指しつつ、新しい別のことで60点を取ることに力を入れるという方法もあります。

もちろん時と場合によりますが、今までなかった新興領域や、社内でも新規の事業、さらには企業そのものが初期成長の段階では新しくやれることの余地が多いです。そういった場合リソースと予算が許す限り、次の施策に進んだ方が効果は大きいことも多いのが事実でしょう。つまりはまだ手を付けてない余白が多い状態ほど、施策の幅を広げて60点を取りに行く方が効果は大きいということです。

0から60点を取る方が、60点から90点を取るより一般的に難易度が低く、標準化されたソリューションを買ってくるなどで、ノウハウ的にもキャッチアップがしやすいです。

例えばベンチャー企業の経営者からすれば、この考えは当たり前に日頃行っているかもしれません。一方でこの視点を最も失っているのは大企業だと思います。事業や機能が細分化され、1人あたりの担当範囲は狭くなります。その分だけ深く突き詰め、与えられた領域の中で高いパフォーマンスが発揮できることが良い点ですが、一方で人単位で担当スコープが狭くなるため、

「自分の今やっている仕事よりも、別のことにリソースを注いだ方が良い」

という考えが生まれづらい環境になります(これは自分が別のやりたいことを主張するのとは違い、会社にとって何をするのが良いのか考えること)。 極端な話ですが

「自分をクビにして人を減らし、隣のチームに人を採用して、こういうことをやったほうがいい!」

という人は稀でしょう。

担当者レベルではなく、これがたとえ部長レベルになったとしても、自分の部の予算を減らして別の部に使ったほうが良いと発言する人は少ないでしょう。レイヤーが違うだけでは意味がなく、結局は全体最適の視点を持っているかどうかが重要なのです。だから小さい企業で、浅くとも広く自分の自由が効く(裁量が広い)人の方が、このような注力ポイントの置き換えはしやすく、事業の拡大スピードが速いように感じます。

大企業じゃダメだというわけではなく、このような視点を忘れないことが必要ですね。