デジタルトランスフォーメーション:クイックウィンとして適したデジタル施策とは。

昨今の経営者はステークホルダーに対して”デジタル化が推進できていること”をアピールする必要があると書きました。その記事はこちら。

とりあえずデジタルで何かやりたい。 そんな漠然とした要望を経営層から受けることは実際に多いです。そしてどちらかというとクリエイティブ...続きはこちら。

本来であれば”ビジネスで何を成すべきか”という検討があったうえで、”デジタルをどのように活用できるか”というHowの検討がなされるべきだと考えます。ですが経営者の

「とにかく早く何らかのデジタル施策を実行に移し、ステークホルダーにアピールせねばならない」

という要望に応えるべきだと思いますし、ステークホルダーマネジメントとしても重要なことだとは思います。なので今回はビジネスの練り直しを飛ばしてクイックウィンに適したデジタル施策について書いていきたいと思います。

■ずばりバックオフィスの工数削減系はクイックウィンに向いている。

結論としては”バックオフィスのコスト削減”というテーマでデジタル施策を投入することがクイックウィンに向いていると考えます。僕がそのように考えるのは

「バックオフィスという各企業共通の業務にはベストプラクティスが適用しやすいから」

というのが理由です。もう少し掘り下げていきましょう。

クイックウィンはとりあえずやれるデジタル施策を急いでやってみることではありません。”デジタル化を進めている”というだけのアピールにはなるかもしれませんが、効果が出ないものに投資をするのは無駄です。そして最初に実行した施策で効果が示せないと企業内でもこれからデジタルトランスフォーメーションを行っていくことに心理的抵抗が生まれるリスクがあります。

なので性質上、クイックウィン施策は以下の要件を満たしているべきと考えます。

  • あまりビジネス観点で練らなくとも、早急に実行に移せること(投資額もそれほど大きくならない)。
  • 実際に効果があり、それが早く出ること。当然それが定量的に測定できるタイプの施策であること。
  • 後から追いかけてくる”デジタル化の中期計画”に対して、手戻りにならないこと(クイックウィンで投資したが、その後中期計画実行時に同じものに投資し直しにならないこと)

■バックオフィス業務の工数削減が適している理由とは。

まずかなり重要なのが最初の”ビジネス観点であまり練らなくとも”というところ。これは上流から時間をかける必要がないということと、併せてその企業ごとの特性を加味しなくても進められるということです。これらの条件は、世の中のベストプラクティスをサクッと適用しやすいことを示しています。

そしてこれらの条件にヒットするのが、各企業で共通性の高いバックオフィス業務です。アウトソーシングすることも非常に多いこの領域は、つまり業務共通性が高く企業ごとの特色が比較的出づらい領域です。こういった領域を選ぶことによって早急に実行に移せ、そしてベストプラクティスを活用できることで着実に効果も出せるのです。

また工数削減につながるような施策であれば、削減された業務時間×人月単価でコストを定量的に出せます。これがブランド価値などの定量評価難易度が高いものでは(もちろん実施価値があるが)クイックウィンでアピールするには不向きと言えます。

最後にコスト削減の中でも業務工数を削減する施策が良いと考えるのは、施策がスタンドアローンだからです。後からデジタルトランスフォーメーションの全体像を中期計画で出てきても、業務工数削減施策は全体計画と矛盾を起こしづらいです。これが製品原価を削減するようなコスト削減だと、設計から調達、製造まで全体像に従って各施策を打つため、場合によっては全体計画を立てる前の施策が矛盾を起こす可能性もあります(一般論ですが)。

なので業務工数削減をデジタル技術を活用して実行しておき(多少のBPR(業務プロセス見直し)はセットで行うことが望ましい)、後から必要であれば他業務に業務工数削減施策を横展開をできる状態にしておけば非常に良いですね。バックオフィスにおいてコスト削減ができたものを、後から全体計画で取りやめにするのは考えづらいです。

■懸念もある。特に新鮮味にかけることだ。

バックオフィスの業務工数削減は純粋にBPR(Business Process Re-engineering)から行ったり、BPO(Business Process Outsourcing)を行うのが大観ですが、今回はデジタルという文脈を入れねばならないためツールによる自動化や効率化が主になります。キーワード的にはRPA、AI、チャットボット導入などが挙げられます。

こうしてロジックはあるのですが、クライアントに対して手放しにこれをやるべきだと言い切れるものでもないと思っています。なぜなら「確かにそうかもしれないけど・・・」という言葉を発生させる懸念点がいくつかあるからです。

  • 面白みや新鮮味が強くない
  • B2C企業の場合は消費者(ステークホルダーのひとつ)に見えづらい施策なので、消費者にもデジタル化のアピールをする必要がある企業ならばメディアを通じてアピールする等の必要がある(働き方改善の文脈を混ぜたりして)
  • 企業規模が大きくない場合はバックオフィスの工数削減効果自体が小さい可能性もあり、最初に費用対効果の試算を行った方が良い

最大の懸念はひとつ目です。ここまで話してから実際のデジタル施策を見ると、はっきり言って凡庸に見えるかもしれません。それはデジタル化で先行している各企業が今まで世間に導入実績をアピールしてきたものなので、”見慣れていて新鮮味がない”からでしょう。ベストプラクティスがあるというのは、裏返すと世の中で新鮮味がないという側面もあります。

だからと言って自社ではまだ実行もできておらず、効果創出余地があるということです。たしかにデジタル化を行うにあたって、ついつい他社がやっていない最先端のことを(なんとなく)期待してしまうものですが、それは中期デジタル化計画の中で検討していきます。

まず直近はかっこつけて一足飛びを目指さずに、着実なクイックウィンを目指すのが良いと考えます。