デジタルトランスフォーメーション:PMIにおけるデジタル戦略の論点。~3つの論点編~

前回に続いて、今回は具体的な論点を考えてみようと思います。これまでにもあった論点から、昨今のデジタル技術の浸透により新しく発生した(重要度を増した)論点まであるかと思います。

僕はM&A関連については全くの素人なので、これから述べていくことは推察論であることを先に断っておきます。近々PMIをやっている人と...続きはこちら。

■論点1:マネジメントの意思決定に必要な情報が迅速に入ってくること。

どの企業にも会計という共通言語があるので、統合した企業間でこの共通言語を読み解くのはもちろんマストです。でも元々が別の企業であれば「データの粒度(集計単位)が違う」「期間の切り方が違う」など色々な問題にぶつかると思います。短期で売却するような場合でなければ、共通のERPシステムにするという手もあります。

ただ昨今では「複数グループ企業に基幹システムを入れ替えて回るのに5年」と言ってもビジネスのスピードに合わなくなってきていると感じます。それよりもBIツールなどでバラバラのデータを整理して揃える方が立ち上がりが早いのではないでしょうか。もちろんその後で、賞味期限が来たERPを入れ替える際には共通のシステムを入れるなど、整理を進めることは良いことです。

また会計データだけで意思決定をするものでもないと思います。会計というのはいわば「ビジネスの結果」だと思うのです。その前にはマーケットリサーチ、製品開発、マーケティング、サプライチェーンと様々な動きがあり、これらの最新情報はERPにはないことが多いです。こういった情報をまずはQuick&Dirtyに掴み意思決定に繋げられれば良いと思います。企業統合して、1~2年後から状況がわかるようでは遅いんです。

■論点2:統合したことで共通化できる業務をコストダウンすること。

昨今のIT技術はRPAやAIなど、上手に活用できればコストダウンにつながるものがどんどん出てきています。端的に言えばこういったバックオフィス側のコスト削減とは、つまり人件費の削減です。代わりにシステムがやってくれるのであれば、その分だけ人のリソースが浮きます。

これはもちろん企業単体でもやるべきことであって、企業統合において特別に発生する論点ではありません。でも企業統合においては特に「共通化できる業務のコストダウン」は重要だと思っていて、結果としてこのバックオフィス業務効率化的な話にはつながると思います。

企業規模にもよりますが、統合や買収をすれば合算規模は大きくなります。ダブってしまう業務は共通化していくのが基本ですが、一定以上の規模が出ることによって”シェアードサービス or BPO(業務アウトソーシング)”が実現可能になることもあります。同様にRPAやAIの導入といったことも実現可能になってきます。

何故かと言うと、こういった大きな投資/変革で費用対効果を出すためには一定の規模がないと損益分岐点を超えないからです。それが理由で今まで企業単体で実施してこなかったことが、統合によって可能になる場合もありますし、これこそスケールメリットなわけです。

■論点3:顧客を含めたマーケティング資産を共有すること。

この辺りが”デジタルっぽい”コンテンツかもしれません。

企業活動は”儲けること”が目的であり、もちろん統合・買収行為もその一環です。なのでバックオフィスが共通化してコストメリットを出すことは主目的ではないですし、データドリブンの経営判断もHowのひとつでしかないわけです。

テクノロジー・ノウハウ(シェアなどを含む)の吸収といった”儲けを加速するための何かを得る”ことが主目的で、ここにITの視点から付加価値を加えることがPMIにおける主たるデジタル戦略なのかもしれません。例えばAdobeがMarketoを買収したりSalesforceが色々買収しているように、IT製品そのものを取りに行っている場合だと、元々自社で持っていた製品との統合や親和性の向上を図ります。結局 “儲けを加速するための何かを得る” 領域においては、その時々で検討すべき論点は変わりそうです。

一方で共通で考えられそうなのがマーケティングデータの統合かと思いました。DMP(Data Management Platform)というものがありますが、これは自社内でのデータを一元集約するシステムでもあり、同時に他社と契約を結んでセカンドパーティデータをやり取りできるものでもあります(もちろんサードパーティデータも購入できる)。

ある意味企業統合まで行わなくともこうしてマーケティングデータのエクスチェンジはできますが、その一方で競合他社との共有や、手放しで全データの共有はできないのが実情と考えています。これが企業統合となれば双方のデータ資産を完全に開示し、双方のノウハウを活用できる余地があります。これがデジタル戦略の主たる点かもしれません。

B2Bだったり、B2Cだったりでもちろん相性もありますが、それまで蓄積していた顧客の行動データは大きな資産です。統合した相手企業の顧客データから、新しくその顧客層にアプローチができるようになります(そして行動がわかっているので精度の良い施策が具体的に打てる)。またカスタマージャーニーを統合することで、相互に送客を行うこともできます。

例えば簡単な例で、食品会社が医療系のハイテク企業を買収したとします。この医療検査を格安で提供するサービスを新規開発し、そこから予防医療として健康食品の定期購買につなげるなど、カスタマージャーニー自体を大きく変えることでシナジーを生むことができるのです。

こうしたデータ資産の統合と、新しいカスタマージャーニーの設計はITに閉じた話ではなく、マーケティングとテクノロジーの両側面からPMIで検討していく論点のように考えました。