育成は投資です。特にコンサルティングファームについてはそう言えると僕は考えています。
今回は漫然と育成というものに取り組むのではなく、その育成対象にメリハリを効かせるべきということについて書いていきたいと思います。性善説に立って言えば企業で採用した以上全人材を育成することが理想なのですが、現実的には育成にもコストが伴い、そして育成だけに集中することはできない環境です。その中で育成へメリハリをつけるということを、投資配分の考え方から整理していきたいと思います。
■コンサルティングファームにおいて、成長見込みがない人材はリプレースという選択肢がある。
クビにはならない終身雇用がまだ色濃く残っている企業(特に日系ですね)においては、基本的に”今いるメンバーを育てて戦う”ことが前提になります。もちろん中途で必要なスキルを持つ人材も雇い入れるのですが、そんなタイミング良く求める人材を採用できるとは限りませんし、既存のメンバーにバリューが出ていない人材がいても遊ばせておくわけにはいきません。チームとして人件費にも予算というものがありますから。
それに対してバリューが出なければ、最終的にはプロジェクトからのリリースやクビにできる企業の場合、もちろん育成は必須なのですが、“成長が見込める人材をある程度選んで”育成することが可能です。それはつまり、そもそも成長が見込めない人材をリプレースでき、成長が見込めない人材を無理やり育成しなければならない苦難は避けられるということです。
もちろん会社としては「入社した人間は全員成長できるよう見離さずに育成してくれ」と言うのでしょうが、実際にプロジェクトレベルで見ると少し事情が異なってくると思います。
コンサルティングファームにおけるプロジェクト制では毎回必要なスキルを持ったメンバーを職位別に選定してチームを組むため、プロジェクト毎にチームメンバーが異なります。さらに自社の所属組織が大きかったり、昨今の人員拡張傾向にあるファームにおいては、チームの大多数が「初めまして」のメンバーとなることもあります。つまり育成の観点においては、チーム全員をめちゃくちゃ苦労して育成したとしても、そのほとんどのメンバーは次のプロジェクトに連れていくことはできないということです(ファーム全体のためにはなります)。
■育成とは工数のかかる、いわば投資である。だから限られたプロジェクト工数の中でどれだけ時間をかけるのか決める。
チームマネジメントと人材育成を担う側からすると、時間というのはざっくり言えば”プロジェクトの成果向上”と”人材育成”に主な時間を投じていくことになります。マネージャー以上でも1日が24時間というのはメンバーと等しく、その中でどれだけの時間を2つに投じていくか考えながら進めていきます。
単純な例を出せば、仕事ができるメンバーにはガンガン検討を任せて、仕事ができないメンバーは単純作業をやらせる 。これはつまりプロジェクト成果向上を最優先して、仕事ができないメンバーの育成は放棄しているということです。
育成をするには、各メンバー個々人のスキルレベルに合わせて任せる仕事のレベルや粒度を調整しますし、たとえ任せたそれが達成できなくても、時間を割いて説明したり、すぐに答えを渡さず粘り強く再チャレンジに付き合ったりしたりします。この育成には育成する側の、そしてチーム全体の工数がかかるので、育成を丁寧にするほどプロジェクト成果物を最短で仕上げるのとは別の工数がかかってくることになります。この育成工数への比率の掛け方は育成をする側の意図次第です。
■育成には2種類あり、投資対効果によってどの人材にどの育成を行うかを決める。
つまり特にコンサルティングファームにおいては、成長する素養がある人材にこそ育成の投資をすべきです。たしかにその点についてはどのような企業でも変わらないのかもしれませんが、それ以外の人材への投資の掛け方が異なるポイントです。リプレースや、残念ながらアップorアウトを前提とできるなら、成長見込みのない人材への投資は最低限とするでしょう。
今回踏み込んで今回書きたかったのは、育成においても”誰にどれだけ育成をするか”のポートフォリオがあるということ。つまり育成に力をかける人材とそうでない人材は明確に分けるべきということです。
僕は育成を大きく2種類に分けて考えています。
- 【60点育成(最速で合格ラインを目指す)】標準的に求められるクラス別の役割•スキルに対して足りていない人材に対し、プロジェクトワークで最低限バリューが出るレベル(60点の最低合格ライン)に底上げをする。
- 【90点育成(中長期的にエース人材を目指す)】標準的なレベル以上でプロジェクトワークができている人材に対し、プロモーション(昇進)やエース化という高みを目指す。
このうち、60点育成までは全員に施していくものの、90点育成まで行う人材は絞っています。再度書きますが育成は自分と、さらにはチームの工数をかけることになるので、いわば投資です。さらには育成工数をかけても成長の度合いは人により異なります。これがリターンです。
この費用対効果を見ながら、育成に力を入れる人材とその入れ具合のアロケーション(配分)を決めることが必要です。投資する側も時間は限られているので全員に大きな育成工数をかけられないですし、会社は学校ではないのです。その費用対効果には”本人のやる気があるか”、”可愛がられる人間性か”など気持ち的な面も含まれます。
育成の投資をする側も、漫然と色々な人材に時間をかけるのではなく一定リターンが得られる人材の選択が必要だと僕は考えています。トータルリターンを大きく得るためにはそれも必要なことです。
■メンバー側も受け身では育成されない。育成してもらえる人材を目指す。
そして育成をされる側も、育成してもらえるよう努力が必要なのです。これは全然認識されていないようなので是非頭に置いておいてほしく、黙ってても育ててもらえると思ったら大間違いです。まず何より自身で成長の努力をする。それを見た育成側がその支援をするのです。本人の懸命な努力があることが大前提。
もちろん健気に頑張っていることばかりが重要なわけではありません。投資したら成長というリターンを示し続ける素地も必要ですし、手をかけてもらえる愛嬌も必要です。
むしろこちらは自分の判断で投資を決めるより難しいかもしれません。相手の投資をいかに誘発するかという、自身を客観的にみながら振舞う力が必要だからです。それもプロジェクトワークという余裕のない中で自分を魅せていくには、これもまた戦略が必要です。これについてもまた別の記事で書いていきたいと思います。