前回までは具体的な自分たちが狙う結果を具体的な映像シーンとしてイメージすることと、マネジメント向けのストーリー構成の作り方を書いてきました。今回は最終編として、スライドパッケージ化したのちのブラッシュアップとプレゼンの準備について書いていきたいと思います。
前回までの記事はこちら。
ストーリーをスライドに落としていきつつ、いろいろな観点で何周もパッケージをブラッシュアップ(クリスタライズ)する。
ここまできたらスライド作成に着手します。マネジメント向けの資料作成に限った話ではないですが、まずは資料パッケージ(デック)を構成する各スライドに先程のストーリーからメッセージラインを当てはめていきます。その中でもまず結論・承認してほしいことを端的にまとめたページから作る方が良いですね。そのうえで、これまでプロジェクトないで作成してきた資料から適切な材料をボディ(各スライドのコンテンツ部分)に当てはめていきます。
ですが既存の資料を無理に使い回すことにこだわってはダメです。既存資料を土台にしつつも、マネジメントの判断に必要な情報だけに絞って余分な内容を削除したり、パッケージ全体で粒度感を合わせたりといった調整はしましょう。またイチから作るべきスライドもあるでしょうから、そのときは方眼紙でスライドを起こす通常のステップを踏みます。
今回の記事ではスライドの作り方は本題ではないのでこれぐらいにして、資料パッケージ全体を通してのブラッシュアップについて書いていきます。ロジックが独りよがりではないか、必要な情報があって最低限であるかなどを確認してクリスタライズしていきます。具体的には以下です。
- 相手の観点や前提知識から不足している情報がないかチェックし、あれば追加をした上で他と粒度感が揃っているか、重複がないか確認する
- 逆に不必要な情報がないかチェックし、あれば削除したうえで改めてストーリーやロジックに漏れや不整合が出ないか確認する
- 論点や結論、相手へ求めるアクションが明確に浮き出ているかチェックし、必要なら”論点”、”確認ポイント”、”承認事項”といったワッペンを付与しても良い
- 何度か直す中で、都度説明をしてみて(実際に口に出して説明するとベター)話に詰まるところや唐突なところがないかチェックし、エグゼクティブサマリがあれば本編を端的にまとめているか最後にもう一度見直す
- 相手の反応を口振りまで含めた映像シーンで、何を言いそうか想像し(悪い反応だけでなく良い反応も想像するといい)、想定されるツッコミの回答と、必要ならばAppendixを用意する
中でも抜けがちなのは、余分で不必要な情報がないかチェックするという2つ目です。不安だから、あるいは苦労して色々検討を進めたからこそ色々な内容を入れたくなるものです。
「ファッションとは、上級者になるほど引き算である」
ココ・シャネルの名言ですね。ストーリーや資料作成はこの美学に通ずるところがあります。
必ずしもではないですが、幹から枝の順でブラッシュアップしていくためにも、上記は概ね上から順番に行うことを推奨します。また資料パッケージを上から1スライドずつ上記のブラッシュアップを全て行なっていくのではなく、1つ目の観点でパッケージ全体をブラッシュアップし、次に2つ目の観点でパッケージ全体をブラッシュアップし、、、というのを繰り返す方が良いです。人間はそれほど器用ではないので複数観点を同時に意識しながら1スライドずつ見ていくと漏れやバラツキが出ます。1つずつの観点で何周もパッケージを見た方がストーリーを意識しやすく、完成する頃には説明の準備もできている状態になります。
プレゼンにおいてメインは説明であって、資料はそのサポートアイテムである。説明が上手にできなければ意味がない。
前述のブラッシュアップで、ブツブツと声に出しながらストーリーを繰り返し喋っていると説明の準備も大体整ってくると書きましたが、必要であればさらにプレゼン練習をしても良いです。
改めて言われると当たり前のことですが、プレゼンにおいてメインは説明であって、資料はそのサポートアイテムです。綺麗な資料が投影されていても、説明が上手にできなければ意味がありません。逆に言うと、説明が上手であれば資料がダメでも乗り切れることも多くあります。
僕自身が忙しいとき、メンバーを育成したいときなどは「最悪、会議本番で自分が説明、あるいは口頭でカバーすれば乗り切れる」と判断した場合、資料作成はメンバーに自由にやらせます。レビューもストーリーラインやポイントだけに絞ったコメントにします。それぐらい説明が重要なのです。資料は長いストーリー、複雑な関係性、細かい数値チャートといった口頭では頭に入りづらいものを補助する役割をもっています。これが身体でわかっておらず、会議の直前まで資料を作って満足してしまい、会議でうまくプレゼンできない人が多すぎるのも事実です。
それと最後に緊張についても触れておきます。特に場数を踏めていなかったりして「緊張するかも」という人は資料作成が完了したここからの反復練習が本番のスムーズさに反映されます。動画撮影してYouTubeに投稿するならこれで十分でしょう。
でも淡々と練習通りにしゃべることができても会議はうまくいかないことが多々あります。それはプレゼンというものが一見すると一方的なもののように見えて、実は相互的なものだということに起因します。
- 聞いている相手は興味がある部分とない部分があるので、抑揚やペースを調整する
- 理解が追いついていなそうな顔をしていれば、丁寧に補足を入れたりいったんここまで理解できたか聞いてみる
- 納得できない、何か言いたそうであれば、相手の立場をフォローしたり質問を受けてみる
などです。緊張している人ほど機械のように一気に最後まで説明し切ろうとしますが、講演や動画配信と違って会議のプレゼンとは相互的なものです。事前にいくら練習しても、本番で説明途中に止められたりして慌てふためく人はこの辺りの準備ができていません。ここまで準備できていれば緊張していても落ち着いて対処できます。
プレゼンの記事ではないので今回の内容に関連するポイントだけを書きますが、相互的なやりとりに対する準備とは、資料パッケージブラッシュアップの最後にあった”相手の反応を口振りまで含めた映像シーンでイメージする”ということです。プレゼンを行う実際の会議を映像でイメージすることで、相手が聞いてきそうな、突っ込みそうなことが何となく想像できたりします。もちろん想定問答の準備という意味合いもありますが、いざ本番で言われても慌てなくなる”緊張に対する予防効果”もあります。
さらに映像シーンの妄想では、プレゼンをしている自分自身も客観的にイメージすると良いです。会議本番では視野が狭くなります。練習の時点で会議シーンを引きで見ていることで自分が上手に説明している成功イメージが染みついたり、本番でも少し視野が広くなり端の出席者まで目を配れるようになるかもしれません。
長くなりましたが、これらのプロセスを繰り返して場数を踏むことで身体に染みついていきます。ただなかなかマネジメント層と関わる機会が少ないコンサルタントも多くいるでしょう。その機会をただがむしゃらに努力で乗り切ろうとするのではなく、こういったプロセスと自分の取り組みを見比べながら取り組むことで、1回1回の貴重な機会での成長を最大化できると考えています。